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2012年10月 9日 (火)

山田文庫の野呂榮太郎著『日本資本主義撥達史』の一つの読書痕についての報告(2012,10/18加筆)

 田文庫所蔵の野呂榮太郎著『日本資本主義発達史』には山田先生による読書痕が認められる。

 山田先生が所持されておられた『日本資本主義発達史』は、鉄塔書院から昭和5年5月10日に発行された紙装版の普及本である。
 この鉄塔書院版と同じ紙型を使って五年後の昭和10年6月5日に岩波書店からも『日本資本主義発達史』が同じく紙装版にて刊行された。

 この岩波版『日本資本主義発達史』には官権の検閲により文章の削除箇所が15箇所、文字の削除箇所が19箇所にものぼり、この5年という年月の推移を紐解く者に十分に語りかけてくる。(読者は、是非改めて何らかの詳しい総合年表の点検を乞う!)

 今回の報告の発端は次のことから始まった。
 ある偶然から岩波書店版の『日本資本主義発達史』にある削除部分を知り、特に何等かの意図があったわけではなかったが、龍谷大学の山田文庫所蔵の山田先生による書込のある本と比べてみた。
 すると、鉄塔書院版にある文章の削除部分に黒鉛筆で「」が付けられているのを発見した。 最初、これは先生が偶然にも削除部分あたる箇所にご自分でも留意されたのだろう、と単純に思った。 しかし、次の削除部分にもこれと同じ「」が付けられている。 結局、総ての文章の削除箇所を調べた結果、一文字の狂いもなく、岩波書店版で削除された文章の総ての範囲に山田先生は黒の鉛筆を使われ、「」をもって囲われておられたのである。
 これは決して偶然などではない!

 山田先生は岩波書店版の『日本資本主義発達史』が、官権により削除処分を受けたことを知り、自己の所蔵本にその削除された部分の範囲を記録されたのである。

 岩波書店版の削除箇所には文章以外にも文字の削除箇所が19箇所あるが、山田文庫の書き込みからは、この文字の削除箇所への積極的な対応は見ることが出来ない(2箇所に強調符号の「〵」が同じく黒鉛筆で付けられている箇所があるが、筆記具が同じである点だけでこの符号が付けられた時期を特定することは些か早計であろう)。

 これは些か些事に過ぎる!との指摘があるかも知れないが、『日本資本主義発達史講座』の編集者として、また、年齢的にも共に近い(野呂氏は明治33年4月30日生まれ、山田先生は明治30年1月29日生まれ)こと、岩波書店版が出る一年少し前に野呂氏が亡くなられたこと等を我々は認識しておけばよいのであろう。

 ちなみに、野呂栄太郎氏は昭和8年11月28日に逮捕され、翌年の昭和9年2月19日に亡くなられた。 享年34歳。 野呂氏の死の二日後に山田先生の『日本資本主義分析』が岩波から出版された。

 今回の報告では、野呂氏の書物からの削除箇所について山田先生が自らの意志でその箇所を確認・認識されて自己の所蔵本にその記録をとられたと言う事実についての報告である。

 呂栄太郎著『日本資本主義発達史』における削除箇所についての山田文庫所蔵の鉄塔書院版からの報告。

【注1】鉄塔書院版と岩波書店版は同一の紙型からの印刷と思われるため、頁の付け方は共に同じである。
【注2】文字が削られた部分の頁については[ ]に、文章が削除された部分については()内に該当の頁を示した。 参考に鉄塔書院版に既にあった伏せ字箇所(「XX」で表記のある箇所)についてもそれへの山田先生の記載の有無についても調べた(但し、削除分の中にある「XX」については数えなかった)。

[「緒言」p.4]
削除された文字、「また朝鮮に見てゐる。」、「反帝國主義」、「反帝國主義革命」には書込は為されなかった。

(p.8-9)
「遂に天皇及び大臣、大連等の諸氏間の不可兩立的抗争に依って、」が削除部分。

[p.10]
「階級抑壓」「機關」が削除されているが、山田先生はこの漢字各々一つ一つに右下へ斜めの線、「〵」、が黒鉛筆で振られている。

(p.41)
「所謂「王政復古の大號令」の下に……従って、支配階級の搾取と弾壓と暴虐とを容易ならしめつゝあるのである。」が削除部分。

[p.86]
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

(p.158-159)
「第四―は、王朝的絶對勢力と封建的支配勢力就中幕府との……初めて實践的意義を獲得し得たのである。」が削除部分。

[p.160]
削除された文字、「「精霊の天子」」、「中心」、「王朝的絶對」、「王権」、「王朝的絶對」については何も記載がない。

[p.169]
削除された文字、「専制君主制度については何も記載がない。


(p.245)
「それが一般プロレタリア革命運動と目的意識的に結合され、……偉大なる爆發力たり得るであらう。」が削除部分。

(p.285)
「「あらゆる君主の権力と同様に、……。」(…) ……そのまゝ明治政府の下に統一的に繼承せられたに過ぎなかった。」が削除部分。

[(p.287)] (注:この頁には二箇所の削除箇所がある)
「「最も内部的な秘密を、…」……戰術を問題とするが如きは、」が削除部分。
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

[p.288]
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

[(p.310)] (注:この頁には二箇所の削除箇所がある)
「盲目的」、「奴隷的」(このうち「奴隷」には右側に山田先生により黒鉛筆で右下へ長い棒線、「〵」、が二本振られている)、「専制的支配」、「搾取」、「官吏」、「警察」、「軍隊」、「奪は」の文字が削られているが、何も記載がない。
「不完全ながら、所謂「自由民權」のブルジョア革命運動によって……死刑を以つて禁止されてゐる。
」が削除部分。

(p.317)
「それは、「不可避的に帝國主義戰争に、…」……資本主義的世界體制の最も弱き一環を成してゐる。」が削除部分。

(p.319)
「日米両帝國主義者間の戰争準備は……大阪始め各市場は混亂するに至った。」が削除部分。

[p.321]
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

(p.323)
「一方、絶對専制國家の……餘剩價値を生産するための資本に轉化された。」が削除部分。

[p.324]
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

(p.325)
「さて、封建領主の土地領有權が……絶對専制政府に繼承せられた」が削除部分。

[p.326]
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

(p.328)
「日本資本主義をして……不可避的に帝國主義戰争に導く。」が削除部分。

(p.329) (注:この頁には二箇所の削除箇所がある)
「最高の土地領有者として……絶對XXX機構の國家であり、」が削除部分。
「依然として半封建的生産關係の下に從屬してゐる……物質的基礎がある。」が削除部分。

[p.331]
鉄塔書院版、岩波書店版共に伏せ字「XX」となっているところがあるが、これについての記載はない。

(p.339)
「この横暴極まる勞働搾取を以てしても……絶對勢力に對して指導權を握ることになった。」が削除部分。

 以上を総合すると下記のようになる。
○文が削除された箇所は15箇所
○文字が削除された箇所は5箇所19文字
○鉄塔書院版からの「XX」がそのまま岩波書店版に残ったのは7箇所(この「XX」については山田先生による書込は無かったことを確認した)

【PS】
 上記報告のp.339の映像 (2012,10,18加筆)

[2012,10,18] 加筆

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